毒にも薬にも為らず

だからあれだけ言ったのに

美しい季節

女子高生でいられる日常は、1日また1日と着実に減っていく。限りある女子高生の期間を噛み締めて過ごそうと決めたのは文化祭準備も始まらない夏の盛りの頃だった。所謂JKブランドとは程遠い、田舎の公立高校でお世辞にも可愛いとは言えない制服。近くにあるものといえばだだっ広い海くらいだった。惰性で過ごしていた高校生活が、最後の学校祭を前にして手放し難くなった。

 

セミの鳴き声を大音量の音楽でかき消しながら、日焼けを気にして日陰で待った帰りのバス、遠足でバーベキューをした帰りに体操服で行ったカラオケ、友達に背中を押されて撮った好きな人とのツーショット、終わる度に後悔するものの結局一夜漬けで受けた試験。

 

こんなにも輝かしい季節はもう二度と訪れない。高校生の終わりとともに人生が終わってしまうようにも思えた。

 

 

 

幸せなことに、仲良しの友達は私含め皆推薦で進路が決まっていた。最後の学期末テストも終わり、あとはいよいよ卒業を待つだけという時期の友達との会話を思い出す。先の見えない大学生活、私たちはバラバラになる。永遠の別れなんて距離ではないとしても、気軽に会える距離ではない。分別がつかない若さで悪さをしたり馬鹿したりして、ずっとこのまま高校生でいたいねと泣いた。もう子どもではいられないと知った。

 

 

1回折りのスカート、ダサくて嫌いだった黒の紐リボン。もう袖を通すことは無いと思うと存外愛おしく思えた。今日限りでお別れで、今年この高校に入学する近所の女の子の元にいくのだろう。

 

人と馴染むのが苦手で、不安も多かった高校生活がこんなにも楽しいとは思わなかった。

これからの人生始まったばかりだし、まだまだ学生だ。不安の多い大学生活もきっと、楽しい毎日だろう。だけど、やっぱり私にとって高校生活は特別だった。

 

振り返ると宝物のような毎日を、当たり前のものとして甘受していた日々。何気ない友達との会話や、午後の授業の微睡み そんな美しい季節を、これからは幾度となく反芻して生きていくんだろうな。

 

 

女子高生という肩書きがあるだけで無敵だった。